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Innocent Blue

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Innocent Blue 3

だべり回。
だけど安心の駆け足展開。

pixivの方でアンケートやってますので、もし良ければどうぞ。

Innocent Blue 3


 イヴがこちらの世界に来てから、何度も意識が引っ張られるような感覚がしている。気を抜けば、簡単にもう1人にとって代わられそうだった。
(とんだ粘着質だこと……)
 自分の念から生まれたものとはいえ、そのあまりの執着心に思わず眉を顰める。
「ギャリー?」
 隣を歩くイヴが、心配そうな顔でこちらを見上げて来る。
「どうしたの? どこか苦しい?」
「……んーん、ちょっと嫌いな奴のことを思い出してただけよ」
 そう答えて、イヴの頭に手を乗せる。とにかく、今は彼女を一刻でも早く現実世界に返すことが第一。余計な心配はかけないようにしなければ。
「それにしてもイヴおっきくなったわねー。いくつになったの?」
 話題を逸らすついでに、気になっていたことを尋ねてみる。
 確か、前回一緒にいた時イヴの身長は自分の腰上までだった筈だ。それが、今は胸の辺りまで伸びている。
「えへへ、ありがと。今年で13歳になったの」
 嬉しそうに笑いながら、イヴはそう答えた。つまり、外の世界では4年が経過しているということか。
「へぇ、じゃあもう中学生なのね……ってごめんごめん、ティーンのレディに馴れ馴れしく触るなんて失礼だったわ」
「あ……」
 そう言ってイヴの頭に乗せていたのを下ろし、コートのポケットにしまおうとするギャリーの手をイヴの手が掴んだ。
「そんなことないよ。私、ギャリーといられて嬉しい、から……」
 どこか気恥ずかしそうにはにかみながら、イヴはギャリーの掌に自分のそれを重ねる。
「ねぇギャリー、前みたいに……手、繋いでてもいい?」
 掌を介して、熱いくらいのイヴの体温が伝わってくる。自分の指も大概だとは思うが、9歳の時に比べて細く長くなった指が年月の経過を感じさせる。
「……ええ、イヴが良ければ」
 うなずいて、ギャリーはそんなイヴの手を握り返す。あれから人生経験を積んで、世間一般の価値観や常識を学んだ筈の少女が自分に変わらず接してくれていることが、素直に嬉しかった。
「ふふっ……ギャリーは相変わらず大きいね。身長も、手も」
「ん、まぁね」
 実際に4つ年を取っていたらどうなっていたかはともかく、おそらく自分の身体にその4年は経過していない。イヴがそんな事実に気付いているのかどうか確かめたいような思いもあるが、余計な心配は掛けないと決めた手前、自分から切り出す気も起きなかった。
「コートも相変わらずボロボロだねー……ていうか、前よりボロくなってない?」
「ま……まぁね」
 デザインとはいえ、こればかりは素直に認めざるを得ない。時間による劣化はないだろうが、擦れたり引っかけたり、物理的負荷ならいくつも覚えがある。
「やっぱりだらしないかしら?」
 9歳のイヴにも指摘されたのを思い出し、コートの裾を持って首を傾げてみる。まあ、だらしないと言われたところで換える予定も方法もないのだが。
 だがイヴは慌てたように首を横に振る。
「あ、そんなことないよ! 私はこのコート、ギャリーらしくて好き」
「あらま、ありがと」
 気を遣ってくれたにしても嬉しい言葉だ。
(これからも、イヴの中のアタシらしくいられればいいんだけどね……)
 そう胸中で呟いたギャリーの脳裏で、もう1人の自分が嘲笑う声が聞こえたような気がした。



「――にしても、陰湿なところよねーココ……もう慣れちゃったけどりゃァ!」
 物陰から飛び出してきた首のない彫像(確か無個性とか言ったか)を、問答無用で蹴り飛ばす。派手な音を立てて砕け散る破片がイヴに当たらないようコートを広げて庇いながら、ギャリーはため息をついた。
(やっぱり、コイツらにとってもイヴは外の人間でアタシはこっちの人間ってことね)
 こちらの世界に1人で残ってからは作品に襲われることはなかったし、先ほどこの廊下を1人で通った時も同じだった。
 それが、イヴを連れて歩いてきた途端この有様である。絵の女やら無個性やら、これまで相手にして(そして蹴り飛ばして)きたのは5、6体。
 念のため振り向いてイヴの薔薇を確認する。彼女の精神を具現化した赤い薔薇は、その手の中で美しく咲き誇り花弁が散った様子もない。
 しかし、こちらを見上げるイヴの顔は何故か浮かない表情をしている。しまった、相手が相手とはいえいささか暴れすぎただろうか……自分にイヴが怯えてしまっては元も子もない。ギャリーは慌てて笑顔を作ると、膝を折ってイヴの視線に合わせる。
「イヴ、どうかした?」
「え……あ、ううん。何でもない」
 しかしイヴの方も首を横に振ると、すぐに笑顔を作ってその表情を隠してしまった。
 ギャリーの頭に、9歳のイヴとの出来事が頭をよぎる。あの時の彼女は、自分に心配をかけまいとどんなに怖くても、どんなに寂しくても「大丈夫」と言い続ける娘だった。倒れてしまうまで、自分の中だけに全て溜めこんで……。
(変わってないのかしらね、そういうところは……配慮できないアタシもそのままだけど)
 成長したとはいえまだ13歳だ。怖くない筈がないし、再会してからそこそこ歩いてきたのだから疲労だってあるだろう。
「……とりあえず、もう少し進んだ所に休める所あるから、そこで一旦休むわよ」
 自分がここでの大半を過ごしてきたあの部屋なら、ソファもあるしそれなりに快適に休めるだろう。前イヴと訪れた時のように閉じ込められた挙句襲われる可能性も無きにしも非ずだが、あの時壁に空いた穴も残っていることだし、出入り口を一箇所自分が固めておけば問題ないだろう。
「うん……」
 イヴが頷いたのを確認し、頭を撫でて立ちあがってからもう1度イヴの手を握り、歩みを再開する。
 薄暗い廊下を進んだ突き当り、青い額縁の絵は幸い自分が通ってきた時と同じく扉のままだ(なお、あの花を要求してくる色々と怪しい絵が復活していたら蹴破るつもりであった)。
 その扉を抜け、進んで行けば次に待っているのは――
「うへぇ……」
 マネキンの首がずらりと並んだ廊下。
 先刻通った際はイヴの元に辿りつくことしか考えていなかったため特に何か感じることはなかったが、改めて来てみると慣れる慣れない以前の問題でやはり一段と気味が悪い場所だ。
「さっさと抜けるに限るわね、こんな所は」
 イヴの返事を待たず、足を早める。ほぼ並列に並んでいたイヴが少し後ろになるが、引いている手には特に抵抗はないのでまだ普通について来れる速さだろう。
「それでイヴ、中学生ってことはそろそろボーイフレンドの1人や2人くらいできたんじゃないの? アンタは可愛いから、周りの子が放っておかないでしょ」
 気を紛らわせるため、イヴの近況に話題を戻す。しかししばらく待ってみてもイヴから返事は返って来ない。
 まずい、ただの恋話に発展させようとしたつもりがデリケートな部分に触れてしまったのかもしれない。だとすればさっさと話題を変えねば……。気のせいか、周りのマネキンの首たちからの視線が痛い。
 そうして別の話題を探すギャリーの耳に、ようやくイヴの声が届いた。
「ねぇ、ギャリー」
「な、なぁに?」
 気まずくて振り向くことが出来ないまま、ギャリーは返事をした。

「ギャリー、何か隠してない……?」

 しかし不意打ちとも言えるその問いに、思わず足を止める。それに合わせて、イヴの足も止まった。
「……へ?」
 笑みが引きつるのを感じながら、もう一度イヴを振り返る。こちらをじっと見据えるイヴは、自分と目が合うと繋いだ手に力を込めて、言った。
「ギャリー、ずっと私の話しかしてないよね? お家の話とか、学校の話とか、友達の話とか……まるで私から話しかけるのを防いでるみたい」
「それは……」
 確かに、ここまで自分は無意識の内にいくつも話題を考えてイヴに振ってきた。それこそ、イヴから話を振られる隙がないくらいに。
「アンタが、どれだけ素敵なレディに育ったのか知りたくて……」
 嘘ではない。自分のいない4年間を、彼女がどう過ごしてきたのか。今はどんな生活を送っているのか。ちゃんと幸せに暮らせているのか。――それがずっと気になっていたことは嘘ではない。……しかし、それだけが本当のことかと問われれば――
「何となくだけど、私分かるよ。今ギャリーは、何かに脅えてる……ここの美術品にじゃなくて、もっと別の何かに」
 ギャリーの言葉を遮るようにイヴが紡いだ言葉に、ギャリーの手にも力が籠る。
 ――駄目だ、まだイヴに悟られる訳にはいかない。

「イヴ。今アタシが怖いのはね、アンタが無事に外に出られないことよ」

 空いた手をイヴの頭に乗せ、何とか笑う。
「だからアンタは、アタシのことまで心配しなくていいの」
 嘘ではない。嘘ではない。
(そう、嘘じゃないもの)
 イヴはまだ探るような目でこちらを見上げている。不安げに揺れる瞳から、信じたいけど信じられない……そんな気持ちが伝わってきた。
 ――くすくす――
 もう1人の笑い声が、頭に響く。
(……煩い)
 その時、突然イヴの表情が曇り、切羽詰まった声がギャリーを呼んだ。
「ギャリー、後ろ!」
「え……」
 だがその言葉に従って振り向こうとしたギャリーの後頭部を、衝撃が襲う。
 ガシャァァァン
 急激に遠のく意識の端で、床に落ちたマネキンの頭が割れる音。
(駄目……今ここで意識を失ったら……!!)
 ぐらり、傾く身体。踏みとどまろうとした足にも力は入らず、視界いっぱいに床が迫ってくる。
 自分の手を握りしめたイヴが、何かを叫んでいるのが分かる。だが、何と言っているのかまでは判別できなかった。
「イヴ……逃げ、て……」
 振り絞ったその言葉は、イヴに届いたのだろうか。
 それを確認することも出来ないまま、ギャリーの意識が、遠のく――

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最近ギャリイヴにどハマり中。痛々しい小説とか落描きとか上げていく予定。

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