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Innocent Blue

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Innocent Blue 1

ギャリイヴ小説連載。
詳しい設定はpixivに上げてるこちらの落描きをご覧ください(多分その内こちらにもアップします)。

超簡単に説明すると『忘れられた肖像』からの未来設定で、ゲルテナ作品化していく自分と戦いながらギャリーさんがイヴを助けたい話です。




Innocent Blue 1


Side:I


「動けるようになったら、追いつくから……」
 暗い廊下で膝をついたその人は、苦しそうに顔を歪めながらも、私を安心させるように微笑みかけていた。
 私は、何も言えなかった。ただとてもとても悲しかった、寂しかった。どうしてこんなことになってしまったのはよく分からないけれど、何故か、私のせいでこの人がこうなってしまったんだということははっきり覚えていた。
 そんな泣きそうな顔をした私の頭を、その人の細い指が撫でる。
「……先に、行ってて……」
 震える指には、あまり力が入っていないようだった。
 私は、勢いよく踵を返し、そのまま廊下を走り始める。不安と罪悪感に苛まれながら、それでもまだ、大切な何かを取り戻せばその人は助かるという確かな希望も持っていた。

「――――――」

 つきあたりの角を曲がる時、振り向いた私がその人に向かって口にしたのは、多分名前だったんだと思う。滲む視界の中で、反応するようにその人が弱々しく手を振ってくれたから。

 ――ねぇ、あなたは誰? 私は、どうしてこんなに悲しいの?
        いつになったら、追いついてきてくれるの……?――



『ようこそ ゲルテナの世界へ
 本日はご来場頂き、誠にありがとうございます。
 当館では現在【ワイズ・ゲルテナ展】を開催しております。
 世界各地で多くの人々を魅了してきたゲルテナの世界が、新たに発見された彼の作品も交え、4年ぶりに当館に戻って参りました。
 皆様にも新たな発見、新たな感動がありますよう、ゲルテナ氏が生前描いた怪しくも美しい絵画たちを、どうか心行くまでお楽しみください。』

 エントランスに立てられた紹介文を一読し、イヴは展示室へと足を踏み入れた。
 ワイズ・ゲルテナ展――4年前に開催された時も、両親に連れられて来たことがある。まだ9歳だったイヴには難しかったり不気味だったりした作品も多かったが、それでも1つだけ、気になって仕方がない絵があった。パンフレットにも画集にも載っていないその絵は、見た瞬間懐かしくも切ない気持ちになって、何故かいつも記憶の片隅にあった。
 ……あの日からだ、自分が不可解な夢を見始めたのは。
 美術館に似た不思議な空間に迷い込む夢、その中で美術品に襲われる夢……そして、そこで出会った誰かの夢――
 目覚める度に、夢であったことに安堵する。だが、何か大切なことを忘れているのではないかという不安は、日に日に強くなっていくばかりだった。
 そんなある日、学校に貼られたポスターで知ったゲルテナ展の開催。あの絵をもう一度見れば、何か思い出せるかもしれない。そう思って、イヴは再びこの小さな美術館を訪れていた。
 ポケットの中には、ライター……。4年前のあの日、身に覚えがないのにいつの間にか手に握っていたものだ。誰かに返さないといけないような気がしてずっと大切にしてきたそれは、妙な夢を見た時に握りしめていると不思議と心が落ち着いた。お守り代わりとして、そしてあの日の記憶を思い出す為のカギとして、普段机の引き出しの中にしまってあるのを持ってきた。
(それもこれも、あなたは全部知っているの……?)
 1階の展示を一通り見終え、階段を上った先。4年前と同じように、その絵は他の絵と並べて展示されていた。

『忘れられた肖像』――

 壁にもたれかかるようにして眠っている男性を描いた絵画。
 ゲルテナは基本的に実在した人物を描かなかったということは、この男性も実在しない人間なのだろうか。
(本当に、すぐそこで眠っているみたいなのに……)
 額縁に近づき、イヴは心の中で呟く。思わずその寝顔に手を伸ばしそうになるが、展示品に手を触れないようにという注意書きを思い出し慌てて引っ込めた。
(……不思議だね、私、あなたに会ったことがあるような気がするの。
 4年前に展示されているのを見たとか、そういうのじゃなくて、実際に会って、話して、触ったような気が……)
 そう言えば、いつも夢に出て来る人物も丁度彼のような容姿ではなかったか。少し中性的な雰囲気のある整った顔、長身で、華奢で、指も細くて長くて――
(あれ?)
 そうして肖像の手に目をやった時に感じたのは違和感。床に投げ出された右手は掌を上にしていて、まるで何かを握っていたかのように指が僅かに曲がっている。
「…………っ!」
 不意に、スカート越しに手に触れていたライターに意識が集中する。
(まさか……)
 恐る恐るライターを取り出し、肖像の手の平に乗せるようなアングルで目の前にかざしてみる。
「あ……」
 床に散っている青い薔薇の花弁、眠っているように目を閉じている男性、握られたライター……。
(これは、本当に絵?)
 いや違う。だって、その前に立った自分は、涙を零しながらレモン味のキャンディーを――

「ギャ……リー……?」

 ――思い出した。

(……私たち4年前この美術館で……)
 不思議な空間に迷い込んで、一緒に出口を目指して、でもその途中でメアリーが彼の薔薇を……。
(何で……何で忘れてたの……!? ギャリーは、私の為に……!!)
 ライターを持った手が震える。そうだ、このライターは彼から借りたもの……眠ってしまった、彼から……。
「返さなきゃ……」
 返すつもりだったのに、ずっと持っていたままだった。
「助けなきゃ……」
 彼は追いついて来ると言ったのに、置いてきてしまった。
「っ! 待ってて、ギャリー……!!」
 周りの来場者たちが怪訝そうな顔をしているのに構わずイヴはライターを握りしめてそう言い放つと、ある一画へと駆け始めた。
(確か、ここに……!!)
 1階の構造から考えてあるはずのない間取り、幻のように消えてしまったあの巨大な絵。それが4年前の入り口だった筈だ。
 そう、確か作品名は――

『絵空事の世界』

 4年前には読めなかったキャプションの上に飾られた額縁の中に、見覚えのある光景が描かれている。
「お願い、ギャリーに会わせて」
 点滅する電灯、消える人の気配、そして、浮かび上がる文字――


 お い で よ イ ヴ





Side:G


「動けるようになったら、追いつくから……」
 暗い廊下で膝をついたアタシは、少しでもその娘に安心してもらおうと何とか笑顔を作った。その間にも、身体を削られるような痛みは止まらない。
 だけど賢いその娘はやっぱりアタシがどういう状況にあるのか理解しているみたいで、可愛らしい顔をくしゃくしゃに歪めて、瞳を潤ませながらアタシを見るだけだった。
「……先に、行ってて……」
 重い腕を何とか持ち上げて、柔らかい髪の毛に手を乗せた。もうこうして触れることも出来ないだろうから1度だけ抱きしめたかったけど、正直そんな力すらアタシには既に残っていなかった。
 するとその娘は歯を食いしばりながら身体を反転させ、廊下の奥へと走り去っていく。せめて一瞬でも長く目に焼き付けておきたくて、その姿が見えなくなるまで霞む目で見送る。

「ギャリー」

 つきあたりの角を曲がる時、その娘がアタシを呼んだ。手を振って見せると、その娘の表情がまた歪んで、すぐに壁の向こう側へと消えてしまった。

「ばいばい、イヴ」

 別れの言葉は、もう届かない。別れの言葉だからこそ、届けたくなかった。
「は……ぁっ」
 膝をついているのも辛くなってきて、近くの壁に背を預ける。
 足元には、メアリーがむしった青い薔薇の花弁。茎には、あと何枚残っているのかしら。イヴが取り返してくれるのならそれに越したことはないけれど、あの娘にはもう何の危険も冒してほしくない。
(……ああ、しまった……)
 上着のポケットから、ライターを取り出す。
 暗い所があった時の為に、これ、渡しておけばよかったわね……。
 今までアタシに迷惑をかけまいとして気丈に振る舞ってはいたけれど、本当はあの娘だって怖くて怖くて堪らない筈。だって、イヴはまだ9歳の女の子なんだから。
 あんな可愛い女の子を泣かせてしまうなんて、また1人にしてしまうなんて最低ね。……でもアタシは、アンタが無事なら、もうそれでいいのよ。出来るなら最後までアンタを守って、一緒にここから出て、マカロン、食べに行きたかったけどね……。
 その時、鈍い痛みがアタシの身体を駆け抜けた。その次の瞬間には、急激に力と意識が抜けていく――
「イ、ヴ……」

 ――出来ることなら、ずっと一緒に、いたかった……わ……――

 暗転する意識の中で、アタシが最後に浮かべたのはそんな言葉だった。
 直後、耳元よりもっと近くから聞こえてきたのは、くすくすという笑い声。

 ――素敵な願いね。アタシが代わりに叶えてあげる――



 目を覚ますと、もはや見慣れてしまった黒い天井が視界いっぱいに広がっていた。
(……またあの時の夢……)
 題名通り自分の指定席となってしまったソファから身を起こしながら、ギャリーは寝覚めの悪さと得も言われぬ不快感に顔を覆った。
 この世界に閉じ込められて、一体どれくらいの時間が経ったのだろうか。朝も夜もないこの世界では時間の感覚などとっくに麻痺してしまっている。そもそも、時計が止まり、空腹感も体力の衰えも感じないということは、この世界に時間という概念はないのかもしれない。
 あの夢の続きも、ギャリーは知っている。朽ち果てた自分の薔薇、なのに身体は勝手に動き、巨大な絵画の前で立ち尽くしているイヴに追いつき、この世界に閉じ込めようとしていた。幸い、イヴは無事にこの世界から元の世界に戻れたようだが。
(……ホント、最悪……)
 あれは自分の意志ではない。だが、ギャリーは悟ってしまった。最後の最後で、自分がイヴに害なす存在になってしまったことを。自分は、この世界の住人になってしまったことを。
 ……いや、まだだ。まだ自分は、人間のギャリーとして意識を保てている。この一線を越えてしまった時、自分は本当にこの世界の人間になってしまうのだろう。永遠にも思えるこの地獄の中、そうしてしまった方が楽なのかもしれない……それでも、ギャリーはその誘惑を何度も撥ね退けてきた。
(きっとまだ、あの娘との記憶に縋っていたいのね……)
 何て女々しいのかしら。口元に自嘲の笑みを浮かべて独りごちる。
「もう1度、イヴに会いたい……なんて……」
 顔を上げ、壁にかかっている額縁を見る。このソファを使うようになってから気付いたのだが、どうやらこの部屋の額縁は外の世界、しかもゲルテナの絵を見ている人間を映しているようだ。
「え……」
 思わず、言葉を失った。
 今、そこに映っているのは栗色の髪、赤い瞳の少女……自分が、全てを捧げたあの――

「イヴ……?」

 やはりあちらの世界とは時間の流れが違うのか、最後に見た時とはずいぶん雰囲気が変わっていた。背は伸び、顔つきもあどけなさが抜け少しだけ大人びているように見える。しかし見間違える筈がない、彼女はイヴだ。成長したイヴが、今まさにこちらをじっと眺めている。

 ――くすくす――

 その時、ギャリーの頭にまたあの笑い声が響く。

 ――イヴだ! イヴだわ!! やっと来てくれた……!!――
「っ! 駄目!!」
 咄嗟に額縁から視線を外し、頭を強く振るがもう遅い。
 ――どれだけこの時を待ち望んできたことか!
 さあ、あの娘を手に入れる準備をしなくちゃ! イヴと一緒にいられるように! イヴは永遠にアタシのもの!! 今度こそ、今度こそ……!!――
 あの時イヴをこの世界に留めようとした、もう1人の自分。人間としての自分を飲み込もうとしている、この世界の住人としての自分。精神の片隅から湧き上がってくるその意志が、ギャリーの身体を支配していく。
「消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ、消えろ消えろ、消え、ろ……消、えろ――!!」
 前髪を引きちぎらんばかりの力で掴んだその指先からは、徐々に力が抜けていく。思いがけずイヴを目の前にした動揺が、もう一人の自分を抑え込む力を奪っていた。

(何で……アタシは、イヴを……)

 ――アタシは、イヴが欲しい――

(……元の世界で……幸せに……)

 ――この世界で、ずっと一緒に!――

(イヴ……逃げ、て……)

 ――さぁ! 早く……!!――

 そして、ゆらりと再び顔を上げた彼の表情に浮かんでいたのは、歪んだ笑み。


 お い で よ イ ヴ

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最近ギャリイヴにどハマり中。痛々しい小説とか落描きとか上げていく予定。

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