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Innocent Blue

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Innocent Blue 2

「Innocent Blue」続き。

やっぱり女々しいギャリーさん。

Innocent Blue 2


「あっはは! 大成功!! やっぱりイヴはいいコね」
 イヴが姿を消した額縁の前で、ギャリーは満足げに笑っていた。
「でも、あのコどこに入ってきたのかしら? 1回目と同じところ? この世界、出口は1つなのに入り口はいくつもあって把握しきれてないのよねぇ……。
 ま、いっか。イヴだってアタシに会いたがってるみたいだし、適当に歩き回ってれば会えるでしょ」
 頬に手を当てて考えてみるが、数秒も経たないうちに彼は結論を出す。そしてソファにかかっていた上着を羽織り、軽い足取りで部屋の出入り口へと向かう。
「さーて、早いとこイヴを見つけて――」
 そう言いながらドアノブに伸ばした手が、止まった。
「……アンタって、ホントしぶといわよねぇ……」
 うんざりしたように腕を組み、ギャリーはそう口にする。
「イヴは自分から望んで戻ってきたのよ? アタシに会う為に、ね」
 ――アンタが呼び寄せなければ本当に戻ってくることもなかった……――
 脳裏に響いたのは彼であって彼でないものの声。ようやく完全に取り込めたと思ったのに、こうもあっさり復活してくるとは。
 ――消えなさい、イヴはアタシが元の世界に帰す。その後なら身体なり何なりアンタにくれてやるわ――
 いつの間にか自由が利かなくなった手が、ギャリー自身の喉を掴む。
「あら怖い怖い、殺気立っちゃって。自分だってイヴが欲しくて堪らない癖に立派なナイト気どり?」
 手に力が籠り、ぎりぎりと気管が締め付けられる。そんなことをしたって、どうせ苦しいのは自分自身なのに。
「くっ……ははは」
 あまりに滑稽で、思わず掠れた笑い声が口から漏れる。
 ――うるさい……消えろ、消えなさいよ……!!――
 手に込められる力は、強さを増して行く。本格的に息が出来なくなり、声すら出せなくなる。それでも、ギャリーの口角は吊り上がったままだ。
「っ! げほっ――!!」
 だが突如、その表情が歪み、喉から手を離しそのまま床に崩れ落ちる。
「ハァ……ハァ……」
 激しく咳き込んだ後、荒い息をするギャリーの頭に再び声が響く。

 ――でも忘れないでよね、アタシはアンタから生まれたのよ?――

 くすくす……自分を嘲笑う笑い声が続き、そしてだんだんと小さくなっていく。
 声が完全に消え去ってからもその場でしばらく息を整えていたギャリーは、やがて立ち上がり、握りしめていた拳を開きドアノブにかけた。
「……でもアタシは、イヴが幸せならそれでいい」
 扉を開く直前、呻くようにギャリーは吐き捨てる。

「アンタなんかと、一緒にしないでちょうだい……!!」



 降り立ったのは、見覚えのある赤い廊下だった。
 辺りを見回せば、壁際に置かれたテーブルの上に花瓶、そしてそこに活けられている、1輪の赤い薔薇……。
「ここ……ギャリーの薔薇を見つけた場所だ……」
 この先の廊下にギャリーが倒れていて、この近くで絵画の女から取り返した薔薇を手渡して……それが、彼との出会いだった。
 もう1度周りを確認するが、どうやらあの時の女はもういないようだ。壁にも、何も掛かっていない。
 ほっと胸を撫でおろしながら、イヴは先程のテーブルに駆け寄った。花瓶から薔薇を抜き、両手で支え持つ。ギャリーが自分の青い薔薇と引き換えに取り戻してくれた赤い薔薇。あの時より成長したせいだろうか、花弁の量が多くなっているような気がする。

 その薔薇朽ちる時、あなたも朽ち果てる。
 薔薇とあなたは一心同体、命の重さ知るがいい。

 テーブルの両脇の貼り紙には、あの時と同じ注意書き。
「……ギャリー……」
 ギャリーの薔薇は、メアリーに全てちぎられてしまった。本来なら、彼の眠りは2度と目覚めることのない永遠のものなのかもしれない……けれど。
(私が元の世界に戻る時にやってきたギャリーが、もし本物のギャリーだったなら……)
 『絵空事の世界』に飛びこむ直前現れたギャリーに、惑わされなかった訳ではない。でも、あの時の自分は彼の手を取らなかった。ギャリーは死んでしまった、目の前にいるギャリーは偽物だ……そう思い込んでいた、思い込もうとしていた。
 しかし、もしギャリーが死んでいなかったのだとしたら……死んでいても、何らかの理由で蘇っていたのだとしたら……ウサギの置物にずっと話しかけていた時のように、精神を蝕まれていたのだとしたら……。考えれば考える程、可能性はいくらでも生まれてきた。
 勿論、その可能性が限りなく低いことなど百も承知だ。それでも最後に、動いて喋っているギャリーを見てしまった以上、それを思い出してしまった以上、考えずにはいられなかった。
(だって私、ギャリーに返さなきゃいけない物があるの。伝えたいことがあるの)
 思い出したのは、出来事だけではない。思ったこと、感じたこと、考えたこと……9歳の自分が抱いていた感情も、その時には幼すぎて理解出来なかった感情も、今では理解出来る。

(……愛してるよ、ギャリー)

 だから、今度こそ彼と一緒に帰る……薔薇とライターを額に寄せ、イヴはそう堅く誓った。



 とにかく、まずはギャリーを見つけなければ。しかし、最後にギャリーと別れたあの廊下に向かうべきか、それとも彼が移動していることを想定して虱潰しに探して行くべきか……。
 先程の廊下から進み、右手には書庫への扉、正面にはまだ続く廊下。
(確か、この先よりここに来るまでの方が道は短かった筈……)
 仮に正面へと進んで出口付近に行ってもギャリーを見つけられなかったら、またここまで戻って来なければならないことになる。
(……行こう。やっぱり、可能性がある限り試してみないと……)
 そう意を決したイヴは右手の扉に手を伸ばし、ドアノブを回す。
「…………!」
 だが扉を開いた瞬間、全身にぞわりと鳥肌が立ち、足がすくむ。
 床に散乱する本、傾いたり倒れたりしている本棚、更に、本や壁には何かで切り裂かれたような跡もあり、あちこちに赤い絵の具が散っている。
「なに、これ……」
 思わずイヴがそう呟いた時、本棚の陰で何かが動く音がした。
「ない、ない、ない……」
 その方向に目を向けると、子供のようにやけに高い声も聞こえてきて、やがてその主と思われるものが姿を現す。
「書斎のカギがどこにもない……誰が食べちゃったのかなぁ……」
「っ……」
 それは、クレヨンの落描きがそのまま出てきたような異様な姿をしていた。
(あの絵本の……女の子……?)
 そう、彼女は確かに、この部屋にあった絵本に出て来る登場人物。友達の誕生日パーティにガレット・デ・ロワを振る舞い、しかしその友達がうっかり飲み込んでしまったものがコインではなく書斎のカギだと気付いた彼女は――
「ねぇ、ひょっとしてお姉ちゃんが食べちゃったの?」
 一歩、また一歩と、こちらへ歩み寄ってくる少女。その服や手に持っている包丁には、赤い液体がまるで返り血のように付着している。
「ち……がう……」
 何とか声を絞り出して答えるが、少女は歩みを止めない。
「えぇ~、ホントかなぁ? じゃあ、確かめるからちょっと調べさせてよ」
 そう言うや否や少女の足が速まり、その姿に不釣り合いなスピードでこちらに迫ってきた。イヴは反射的に身を翻し、先程進路から外した廊下へと走り始める。
(しまった……ドア……!!)
 振り向いて見るが時すでに遅く、開いたままになっていた扉の隙間から出てきた少女は引き続きイヴを追ってきている。
 こうなったら、とにかく先に進んで逃げ切るしかない。この廊下を突っ切れば、たしか次の部屋への入り口が――
 だが突然、床についた足が何かで滑り、その場で転倒してしまう。
「っつ……」
 足元を見ると床にはぬるりとした液体が落ちていて、視界の端には舌が動いている絵……。
「追いついた……!!」
 そして顔を上げれば、あの少女が包丁をこちらに向け飛びかかって来ようとしている。
「や……!」
 立ち上がれないまま何とか手を使って後ずさるが、少女がイヴに迫る方が圧倒的に速い。
 ギラリと光る包丁が、イヴの腹部に向かって振り下ろされる――その瞬間、


「イヴっ!!」


 叫び声と共に何かが脇を駆け抜け、イヴの視界が紫紺に覆われた。

「あ……」

 ぐしゃり、紫紺の向こう側で何かが潰れるような音がする。

「……ギャ……」

 翻っていたコートが重力に従って垂れ下がり、見えるようになったのは壁に叩きつけられ動かなくなった少女の絵と、宙に突き出された長い足。

「……リー……」

 彼はその足を下ろすと、ゆっくりとこちらを振り向いた。


「……怪我はない? イヴ」


 あの時から変わらない、華奢な身体、優しい微笑み――

 ……視界が、滲む。


「ギャリー!!」


 跳ねるようにして立ち上がり、その胸に飛びこんだ。
「わっ! と……」
 ギャリーの身体が、2、3歩よろける。
「ギャリー! ギャリー……っ!
 ごめんね、私……あなたを置いて行っちゃった……! あなたを忘れちゃってた……!
 ごめん……ごめんなさい……でも、ずっと会いたかった……!!」
 思いと涙が次から次へと溢れだしてきて、上手く喋れない。まるで小さな子供のように泣きじゃくりながら、それでもようやく思い出した4年越しの温もりをきつくきつく抱きしめた。
「……もう、おバカさんねぇ」
 しばらくして、ギャリーの手がイヴの背中に回る。宥めるように軽く背中を叩いてくれる手のリズムが心地よい。
「せっかく出られたのにまた戻ってきちゃうなんて……。
 おまけに不用意に抱きついて来るし、アタシが偽物だったらどうするつもりなの?」
「だ、いじょ……ぶ」
 あの時実際に抱いた思いを見透かしたようなギャリーの問い。だがイヴは首を振り、呼吸の落ち着かないまま答える。
「だって、こんなに……優しいギャリーが偽物の筈、ない……から」
 それを聞いたギャリーの表情が悲しそうに歪んで見えたのは、きっとまだ目に溜まった涙のせいだろう。



「落ち着いた?」
 イヴに襲いかかっていた少女を書庫に放り込み、扉を閉めてから、ギャリーは壁に背を預けて座る彼女の隣に腰を下ろした。
「ん……」
 泣き腫らした目をこすり、イヴが頷く。そしてばつが悪そうな笑顔をこちらに向け、口を開く。
「ねぇ、ギャリー……この場所、覚えてる?」
「……ええ、覚えてるわよ」
 忘れる筈もない。ここは、イヴと初めて出会った場所だ。
 青い服の女に薔薇を奪われ、瀕死になっていた自分を、イヴが助けてくれた場所――
「今度は私がここで助けられちゃったね。私、ギャリーを助けに来たつもりだったのに」
「イヴ……」
 ああ、やはりこの娘は自分のために……。
 でも、今の自分はあの時の自分ではない。薔薇を失い、この世界に取りこまれ、人格さえ変わろうとしている。
(本当のことを言わないと……)
 だが本当のことを言って、イヴは諦めてくれるだろうか。納得してくれるだろうか。あれだけ怖い思いをしてようやく脱出できたこの世界に、わざわざ戻ってきたこの少女が――いや違う、本当は……本当は……――

 本当のことを言って、イヴに嫌われるのが怖い。

(……最低)
 イヴを見つけたらすぐに話そうと思っていたのに、彼女のぬくもりに触れた途端込み上げてきたその思いに吐き気がする。
「……ギャリー?」
 知らず知らずの内に考えが表情に出ていたのか、気がつくとイヴが心配そうにこちらを覗きこんできていた。
「どうかしたの?」
「……いいえ、なんでもないわ」
 慌てて笑顔を作り、そう返した。
イヴは納得できないような顔をしていたが、すぐに別の話題を見つけたのか「あ」と声を漏らす。
「そうだ……」
 それからスカートのポケットを探り、何やら取り出すと手を突き出してきた。見ると、その上に乗せられていたのは銀色のライター。
「このライター、やっと返せた……ずっと借りててごめんねギャリー」
 薔薇を失い、意識が切れる直前に手に持っていたそれを彼女が持って行ったことは、燃えてしまったメアリーの肖像を見て何となく理解していた。でもまさか、こんな些細なものを今まで大切にしてくれていたとは……。
「ありがと、イヴ」
 ライターを受け取り、もう片方の手でイヴの頭を撫でる。あの時より成長している筈の少女はしかし、照れ臭そうにはしているがその手を振り払おうとはしない。
(こんなに優しい娘を、アタシはまた傷つけようとしている……)
「……ごめんね」
「…………?」
 思わず口をついた言葉に、イヴがまた疑問符を浮かべながらギャリーを見上げる。
 まだあの時のようなあどけなさの残る表情が、また曇ってしまうのを見たくなかった。ただ……こんな卑怯者だけれど、どうかこれだけは誓わせて欲しい。
「アンタは絶対、アタシが元の世界に送り届けるから」
 そして、イヴの頭に乗せた自分の手の甲に口づけを落とす。
「……それは違うよ、ギャリー」
 だがそれを聞いたイヴは首を横に振るとその場に立ち上がり、ギャリーを見下ろす体勢になった。

「私が、ギャリーを連れていくの。だから今度こそ、一緒に元の世界に帰ろう?」

 そうして差し出された手と、満面の笑顔――
 その手を握ることに、抵抗がなかった訳ではない。いつかその笑顔を裏切ってしまうことも、分かっている。
「……頼もしいお姫様ね」
 それでもこの場でその笑顔を崩すことなど、やはり自分には出来そうもなかった。

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